きっかけ
東かがわ市の五名(ごみょう)地区の棚田とため池に通いはじめたのは2014年の3月でした。
私(大内)の書籍ファンであるという県立石田高校のN先生から突然メールを貰い、その里山で伐採したヒノキの処理や使い方のアイデアを教えてほしいというのです。
行ってみると水性昆虫や魚類、植物など四国でも珍しい動植物が残る場所で、平成16年の台風で土砂流失の被害を受け、大掛かりな補修工事をやっている最中でした。本ブログはそのときの報告(こちら)から始まります。
工事とはいえ環境省のレッドデータに記載される希少種が多数いることから香川県で初めての「環境保全型事業」が採用され、棚田は再整備されてため池は残されたのでした。
工事中の頃(2014.3.16)
どうして維持・再生が必要なのか
そこは持ち主から石田高校のOBであるHさんらが引き継ぎ、15年の長きに渡ってボランティアで田んぼとため池を守ってきた場所でした。
もし田んぼを止めてしまえば、ため池は流入水を失い、堆積物が溜まり、湿地化して池そのものが消滅します。
水性昆虫を絶滅させないためには、採集圧をかけないことやため池の保全はもちろんですが、上流にある棚田で農薬を使わず昔のやり方で米を作り続けねばなりません。なぜなら田んぼの雑草がゲンゴロウ類などの産卵床であり、水中が幼虫の暮らしの場だからです。
雑木林の更新(部分的に伐採し、植林ではなく萌芽によって再生・循環させる)も重要です。モザイク状に空間ができることで、鳥や昆虫が飛びやすい空間ができ、ミドリシジミ類など若い林を好む里山昆虫が元気になります。
また、このような谷のどん詰まりにある谷津田は、周囲の森林とつながりながら、多種多用な動植物を宿す「核になる場所」といっても過言ではありません。カエルなどの両生類は田んぼを産卵場として草地や森にエサを探し、それらはヘビの大好物であり、猛禽はそのヘビを捉えます。
生き物のピラミッドが高く豊かに形成されるには、その底辺が大きくなければいけません。「水」は微生物の数を爆発的に増やす鍵をにぎっており、無農薬の田んぼはまさにその底辺の温床・揺りかごになるのです。
会発足の機運が生まれるまで
周囲の森林はかつて暮らしの資材を得るめに、常に伐採と収奪を繰り返してきました。そのおかげで豊かな生態系が維持されてきたのですが、現在は草も竹も雑木も誰も必要とせず、草は繁り放題、薮はツルだらけ、竹は密集、雑木林は暗い森に変化しています。
棚田を守るには周囲の里山も保全する必要があり、それらの手入れをすべて週末ボランティアの力だけでやるのは容易ではないけれど、ここまで維持してきたのだからなんとか継続するアイデアはないか?
朗報は石田高校の女子生徒たちが早乙女姿で田植えをする御田植祭が行なわれるようになったことで、それをきっかけに高校生たちや親御さんたちが棚田の収穫まで関わるようになりました。
御田植祭(2014.5.18)
また、棚田下の土手が崩れたとき、その復旧に石垣積みを私が指導したことで、新たな男子生徒たちもこの場所に関わることになりました。
そしてOBたちが五名に通うようになり、里山整備グループ発足の機運が生まれたのです。
交付金を利用して会を立ち上げる
棚田の維持も重要ですが、急がれるのはは上流の荒廃竹林の片付けです。ここにはユキモチソウという珍しい植物が群生しているのですが、枯れ竹で被圧され年々減りつつあるのです。
知人から林野庁経由の「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」というボランティア団体への助成金を教えてもらい、2016年春頃からその申請を準備し、メンバーと打ち合わせを繰り返しました。
山主さんに会って活動の了解をもらい、会の規約を作り、4月に発足。交付金の申請も通り会の名称を「Gomyo倶楽部」と名付けました。
こうして6月19日を第1回目の活動日とし(雨で流れ、翌週の26日に繰り越しになりましたが)、以後毎月第1・第3日曜日を定例活動日とし、現在に至ります。交付金の約束は年間0.3haの竹林整備と観察会・ワークショップの企画です。
夢は「田んぼビオトープ」自然公園&自然学校
土木工事でかつての自然度は失いましたが、今後土石流の危険はなくなり(少なくとも棚田とため池は安全)、道ができて駐車スペースや広場ができました。
東南面に広がる斜面なので陽当たりはよく、ニホンミツバチを飼うにも好適地です(2016年現在、一箱営巣中です)。荒廃竹林を整備するだけでも魅力を取り戻すのは間違いありません。
将来は、ため池+田んぼブオトープ+竹林・雑木林を巡る自然公園として遊歩道を整備し、若い人たちと作業を共にし、火を焚きながら、ここで自然学校のようなものができないかな? ・・・などと夢をえがいています。
(Gomyo倶楽部代表:大内正伸)